最後の短篇企鵝の剥製

読んだ短篇についての雑な覚書を書くペンギンは絶滅しました。本博物館では、在りし日のタンペンペンギンの姿を剥製によって留めています。

2010s

Ottessa Moshfegh, "No Place for Good People"(2014)

(タンペンペンギン、フーターズでご満悦) ・初出は Paris Review ■妻の死から一年が経ち、64歳のラリーはようやく新しい仕事を始めた。成年発達障害者施設での介添人(companion)だ。彼はポール、クロード、フランシスの10代〜30代の入居者たちを受け持つ…

Ottessa Moshfegh, "A Dark and Winding Road"(2013)

・初出は Paris Review。読んだのは短編集 Homesick for another world■妊娠中の妻と喧嘩した弁護士チャールズは家から飛び出して両親の所有していたキャビンで週末をやりすごそうと決める。マリファナを吸いながら弟のMJのことや学生時代に寝取った友人の恋…

Anthony Doerr, "The Deep"(2011)

1914年にデトロイトで生まれたトムには心臓の持病があって、十八歳までは生きられないだろうと医者から宣告されていた。過保護な母親はトムの体を気遣ってほとんど家に閉じ込めるような生活をさせていたが、成長過程でルビーというダイバーを夢見る少女との…

Kevin wilson, "Kennedy"(2019)

(もちろんペンギンたちもビデオゲームがだいすき!) 【概要】 ・8500ワードほど。 ・初出は Subtropic subtropics.english.ufl.edu・Mariner Books の2020年度の年刊短篇傑作選に選ばれている。ちなみに翌年も同社の傑作選に"Biology"で掲載。 ・語り手が…

Richard Powers, “Dark was the Night”(2011)

宇宙ペンギン 概要 ・8000ワードほど。 ・初出は Playboy ・2010年、かつてジェット推進研究所でボイジャーに搭載するカメラの開発に関わっていた元エンジニアの老人ブルーノ・クラニックが認知症向けの記憶増強剤の治験に参加し、その薬の影響(?)で忘れ…

Kevin Wilson, "Scroll Through The Weapons"(2015)

カラヴァッジョっぽくしてくれっていったのにあんまりカラヴァッジョっぽくならなかった戦うペンギン 概要 ・第二短編集『BABY, YOU’RE GONNA BE MINE』から。初出は Ploughshares で、発表当時のタイトルは “An Arc Welder, a Molotov Cocktail, a Bowie Kn…

Weike Wang, "OMAKASE"(2018)

概要 ・ボストンからニューヨークへ移住してきた36歳の銀行勤めの中国系アメリカ人女性が、陶芸家(白人男性)の恋人といっしょに新しく見つけた寿司屋に行く。そこで寿司に舌鼓を打つあいだ、彼女は色々なところに自らの体験や家族の思い出とからんで差別(…

Charles Yu, "Troubleshooting"(2012)

・短編集"SORRY PLEASE THANK YOU"より。 ・前回の "Problems for Self Study"でチャールズ・ユウの短篇に興味が出てきたので、既訳の「システムズ」*1、「OPEN」*2、「NPC」*3を読み直したり(「システムズ」については初読)してたんだけどやっぱあんまり…

Kevin Wilson, “Another Little Piece” (Prime Number Magazine, 2010)

www.press53.com あらすじ ・約1900ワード ・人生に絶望している語り手(オスカー)のもとへ母親から自助グループのチラシが送られてきて、しぶしぶながら〈ミッシング・アワセルブス(Missing Ourselves)〉という団体に参加する。 ・〈ミッシング・アワセ…

Kevin Wilson, “Excerpt from the Big Book of Forgotten Lunatics, Volume 1” (Hobart, 2012)

www.hobartpulp.com あらすじ ・約1200ワード。 ・タイトルを訳すと「『忘れられた狂人大全 第一集』より抜粋」。マイナーな狂人を集めて紹介する本からひっぱってきた文章です、という体裁。 ・この項では「失踪する野球選手」ことモーゼス・ケイジ(1960-…