最後の短篇企鵝の剥製

読んだ短篇についての雑な覚書を書くペンギンは絶滅しました。本博物館では、在りし日のタンペンペンギンの姿を剥製によって留めています。

短篇

Ottessa Moshfegh, "No Place for Good People"(2014)

(タンペンペンギン、フーターズでご満悦) ・初出は Paris Review ■妻の死から一年が経ち、64歳のラリーはようやく新しい仕事を始めた。成年発達障害者施設での介添人(companion)だ。彼はポール、クロード、フランシスの10代〜30代の入居者たちを受け持つ…

Ottessa Moshfegh, "A Dark and Winding Road"(2013)

・初出は Paris Review。読んだのは短編集 Homesick for another world■妊娠中の妻と喧嘩した弁護士チャールズは家から飛び出して両親の所有していたキャビンで週末をやりすごそうと決める。マリファナを吸いながら弟のMJのことや学生時代に寝取った友人の恋…

Anthony Doerr, "The Deep"(2011)

1914年にデトロイトで生まれたトムには心臓の持病があって、十八歳までは生きられないだろうと医者から宣告されていた。過保護な母親はトムの体を気遣ってほとんど家に閉じ込めるような生活をさせていたが、成長過程でルビーというダイバーを夢見る少女との…

Ling Ma, "Los Angels"(2022)

ここには百匹の元カレペンギンがいます!!!!!!!!!!!! 【概要】 ・4200ワードほど ・初出は Granta granta.com・アメリカ文学研究者の矢倉喬士が紹介していたので知った。ブッ飛んだ短編を見つけてしまった。100人の元カレと毎日遊んで暮らす話。…

Kevin Wilson, "Scroll Through The Weapons"(2015)

カラヴァッジョっぽくしてくれっていったのにあんまりカラヴァッジョっぽくならなかった戦うペンギン 概要 ・第二短編集『BABY, YOU’RE GONNA BE MINE』から。初出は Ploughshares で、発表当時のタイトルは “An Arc Welder, a Molotov Cocktail, a Bowie Kn…

Rick Moody, "Primary Sources"(1995)

画像はイメージです(This Image is an image.) 概要と背景とあらすじ ・初出は The New Yorker ・著者のリック・ムーディは1961年生のアメリカの作家。日本ではカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したアン・リー監督の映画『アイス・ストーム』の原作者として…

Kate Folk, "Out There"(2022)

背景 ・7400ワードほど。 ・初出は The New Yorker www.newyorker.com ・ケイト・フォークは2011年にサンフランシスコ大学でクリエイティブ・ライティングの修士号を取得したのち、The New Yorker、Granta、McSweeney's といった一流誌に作品を発表し 、2022…

Fernand A. Flores, "Ropa Usada"(2022)

背景 ・約2300ワード ・概要:膨大な数の古着が集積してエコシステムというか土地そのものになってしまった場所(倉庫?)で、キャシーという大学院生がネットで売る古着を探してちょっとした冒険を繰り広げる。 ・初出は The Common。第二短編集にして最新…

Kevin Wilson, “The Neck’s What Keeps Heart and Head Together”(2003)

背景情報 ・5450ワードほど。 ・ケヴィン・ウィルソンがまだ単行本も出していなかった24,5歳くらいのころの作品。 ・初出は Blackbird blackbird.vcu.edu あらすじ ・修道院で下働きしている日本人の母親と暮らすベッキー、ジェニー、キャリーの三姉妹。彼女…

Weike Wang, "OMAKASE"(2018)

概要 ・ボストンからニューヨークへ移住してきた36歳の銀行勤めの中国系アメリカ人女性が、陶芸家(白人男性)の恋人といっしょに新しく見つけた寿司屋に行く。そこで寿司に舌鼓を打つあいだ、彼女は色々なところに自らの体験や家族の思い出とからんで差別(…

Richard Powers, “To the Measures Fall”(2010)

www.newyorker.com・4900ワードほどの二人称小説。 あらすじ ・1963年、アメリカから英国に留学中の大学三年生である「きみ You」(女性)は、春学期の終わりにコッツウォルズという島を観光していた。そして、たまたま立ち寄ったジャンク屋でエルトン・ウェ…

Charles Yu, "Troubleshooting"(2012)

・短編集"SORRY PLEASE THANK YOU"より。 ・前回の "Problems for Self Study"でチャールズ・ユウの短篇に興味が出てきたので、既訳の「システムズ」*1、「OPEN」*2、「NPC」*3を読み直したり(「システムズ」については初読)してたんだけどやっぱあんまり…

Charles Yu, "Problems for Self Study"(2002)

・約2150ワードほど。 ・『Fakes: An Anthology of Pseudo-Interviews, Faux-Lectures, Quasi-Letters, "Found" Texts, and Other Fraudulent Artifacts』で読んだけれど、初出は『Harvard Review』の2002年秋号。ウェブに再録されていて無料で読める。チャ…

Kevin Wilson, “Another Little Piece” (Prime Number Magazine, 2010)

www.press53.com あらすじ ・約1900ワード ・人生に絶望している語り手(オスカー)のもとへ母親から自助グループのチラシが送られてきて、しぶしぶながら〈ミッシング・アワセルブス(Missing Ourselves)〉という団体に参加する。 ・〈ミッシング・アワセ…

Kevin Wilson, “Excerpt from the Big Book of Forgotten Lunatics, Volume 1” (Hobart, 2012)

www.hobartpulp.com あらすじ ・約1200ワード。 ・タイトルを訳すと「『忘れられた狂人大全 第一集』より抜粋」。マイナーな狂人を集めて紹介する本からひっぱってきた文章です、という体裁。 ・この項では「失踪する野球選手」ことモーゼス・ケイジ(1960-…